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メリディアン 日本語 |
詩 徳沢愛子姉妹のシオンの朝より |
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6ページ 父よ 白い波が盛り上がってくるのが見えます この地上の あらゆる大陸の 島々の あらゆる岸辺に 岩場に 盛り上がった波が押し寄せてきます 雄々しくぶつかってきます 遥かな沖合いから生まれ続けた力は 力こぶとなり ふたつの 三つの 五つの 百の 千の 億の 力こぶとなり 大きな白い波となって なだれ込んできます 力は力を呼んで 思いは思いを膨らませ 倦まず 飽きず 盛り上がってやってきます 強い風 激しい雨 ときに横なぐりの吹雪 何をも恐れる間もありません ただ大きくうねり ぶつかります
父よ 小さい力を 弱い力を 愚痴をこぼす時間はありません 私はあの跳ね上がる一滴のしぶきです 黒く濡れ光る岩場を目指します ぶつかります 跳び越えます そのとき 私のしぶきは 光るか 美しい形か知りません 私は父の声を遥か遠くに認めます リズムに乗って ただ 天空に 一瞬を楽しみます 明るく 喜びます
厳冬 私の地方では あれを(波の華)と 人々は柔和な声で呼びかけます
26ページ 巨人
右足を引き摺る巨人 眉毛濃く どっしりした鼻 浅黒い九州男児 神はヨブの三分の一の棘をあたえたもうた 病名 動静脈奇型 動脈と静脈の間の 毛細血管がないのだ 癌より厄介な代物 よい薬も よい治療方もない 医者は頭を振る
(あんたはね 立たないように 歩かないように 寝ているに限る)
巨人は爆発する 信仰の炎を天に吹き上げ めらめら あかあか この世に棘ある肉体を持ってきたのは 食べるためではない 働くためだけではない
肝心要は 魂の問題だ 霊の問題だ 巨人は高らかに叫ぶ 神殿の中を右に左に 歩く 歩く 右足軽やかな引き摺りで 神様には無言の呼びかけ 腹の底からのいのり 立たないでおられるものか 歩かないでおられるものか 羽根布団に寝ておられるものか 死者の救いのために 生者の喜びのために
見えないものを見据えて 魂 奮い立つ ヨブの飛沫全身に熱く浴び
疾風の中の頸草を 己に重ねながら その己を愛でながら 巨人の眼は 一直線
聖なる神殿の中を 一枚の白い羽毛になって
32ページ あさぎまだら蝶
“てふてふが一匹韃靼海峡を渡っていった” 安西冬衛の「春」という詩である
白い蝶の群れが凪いだ海原をわたっていく 神のいきづかいに乗って そのみ旨を 何もか知っているような 何も知らないままのような はたはた 羽打ち 羽搏き 空と海の蒼さを際立たせ あの花吹雪の紙きれのようなものが めむるめく海を越えようとする 疲れれば小さなヨットの形で 海面に降り立ち まどろむ ほら 羽搏きのかすかの音 誰かへの従順な合図 全身でうち振る手旗信号 羽ばたいて また羽搏いて 導かれるまま希望の大地を目指す 愛は長く耐え忍び 高ぶらず すべてを信じ すべてを望み 私の中で聖らかな羽搏きが呼応する 小さな風を起こして 私自身を激しく打つ あえかな白い羽で 風をたたき 弱さをたたき 醜いものを打ち払い うち落し 羽ばいて また羽搏いて 大海原を渡っていこうとする あの澄みきった小さなものが マリンビルーの決意を促す 永遠の比喩を身ごもって 新しい航海がまた始まる バウンテフルという名の大地に 静かに羽をたたむ日まで
42ページ 夫賛歌 (神殿宣教師として奉仕する夫へ)
あなたは たとえば粗大ゴミ あなたは たとえば濡れ落ち葉 世間じゃ嫌味を盛にのせ これみよがしに鼻をつまんでみせるけど ここではあなたは人も羨む主の僕 ここではあなたは主の牧者 心痛めた羊たち 心勇んだ羊たち 心清らの羊たち 彼らを導く助け人 うれしい言葉はこちらです しあわせ探しの助け人 白い衣に身をつつみ ここと思えばまたあちら 今日は昨日か また明日か 迷うほどの忙しさ 今夜も貧しいながらたくさん食べて歯をみがき 感謝の祈りが終わった途端 うっすら口ひらけ大いびき そんなあなたは粗大ゴミであるものか はたまた濡れ落ち葉であるものか
夫よあなたは偉かった あしたもあさっても偉いにちがいない 私は誇りを盛にのせ これみよがしに見せたいわ 夫という字を息を凝らしてみつめてみれば 天という字に見えてくる あなたの中のちょっと突き出た高慢を もぐらたたきでたたいてしまえば 天という字に見えてくる 天にちかづこうと日々励む夫を私はアイラブユー あしたもあさってもアイラブユー
60ページ 愛する
愛することはとても簡単 愛することはとても困難 こののたうつ落差 簡単は油断を連れてくる 愛するというアンテナが錆びれば 愛が寄り添ってきても よい香りの衣を着ても気づかない
愛することは簡単すぎて 何という困難 自分を愛することは即決即断 隣人を愛する方法はただ訓練ばかり 人口に檜炙される自分探しの旅 そんな暇があれば 自分無くしの奉仕の働き 自分を空っぽに干した分 ホラ 溢れてくるやさしさ 強さ
隣人の重荷を少し持ってあげさえすれば 愛の言葉を一つ二つ口に出しさえすれば 笑顔製の化粧を念入りにさえすれば 湧き上がる愛の泉
愛することは本当に簡単 愛することは本当に不可思議 愛は奇跡を起こす 奇跡は愛でできている 愛に困難という言葉は似合わない
128 ページ ただそれだけのために
蒼空を背に一本の柳の枝が 揺れている 揺れている 神の御手なる風に撫でられ 撫でられ なんというたおやかな踊り手 味わっている 揺れている 揺れながら神の囁きに頷いている すべては ひとつ ひとつに すべては 柳はしなやかにそこに立ている 指先一つおろそかにせず 組織だてられた宇宙を包含して 完壁の部分を一つ受け持ち 波打っている 波打っている 波打ちながら 深い真理の歌さえうたっている 神の呼吸と同化してうたっている うたいながら そこに立っている ただ それだけのために満ち足りている 一本の動けない柳の木は
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